土偶のこと

短歌条例

久々に会えたあなたが抱きしめていた大きめの遮光器土偶。鈍色のそのテクスチャはいやになるほどにリアルで、その瞬間に「ああこれは夢なんだな」と気づいたし、醒めてしまうんだなと思った。

遠浅の海に佇むあなたとのあいだに波がやさしく寄せる。その波に消え入りそうな声色で、ぼくはようやくことばを吐いた。「久しぶり。重そうだね」と、それきりの吐息が銀のうたかたになる。うたかたははじけもせずにゆらゆらとぼくの頭上へ浮遊していく。

この声はたぶんあなたに届かない。無限に浮上していくだけで、曇天のなかに小さく溶けていき、やがてはただの雨粒になる。くるぶしを濡らす冷たい触覚にぼくは徒労を予感している。

遠浅の海でぼくらはお互いの距離を保ったまま立ち尽くす。訊ねたいことはたくさんあったけど、立ち尽くすより他になかった。

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